婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
翌朝、陛下にも話を通すため国王の執務室へ向かった。ラティはイライザにお礼をしたいと言っていたので、午前中は自由にしていいと伝えてある。
せっかくラティが皇女に相応しいソファを用意したのに、あれから皇女は執務室に来なかった。帝国に帰る際は土産として持たせようと思っている。
「陛下、フィルレスです。失礼いたします」
「おお、フィルレス! して、今日はどういった用件だ?」
陛下がにこやかな笑顔を浮かべて問いかけてきた。
でもそれは上面だけで、心の中では今でも僕に怯えていることは知っている。僕はあの日に、両親を失ったのだ。
「エルビーナ皇女の件でお話があります」
「それは奇遇だな! わしも其方に皇女の話をしたかったのだ」
「……どういった内容ですか?」
ニヤニヤと笑い、僕の様子を窺いながら話を切り出した。
「実は、ここ数日でグラントリー皇太子殿下と話をしていて、かなりいい条件を引き出したのだ」
「どのような条件ですか?」
確かにグラントリー皇太子と陛下は外交の話で話し合いを重ねていた。だからこそ邪魔にならないようにエルビーナ皇女を引き受けていたのだ。だが、外交の話をわざわざ僕にする意図がわからない。
心当たりがないわけではないけれど、まさかと思う。