婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

私の心に寄り添ってくれたひと


 ——どうしよう、困ったことになった。

 王城へ戻る馬車の中で、私は流れゆく景色に視線を向けた。
 今日はイライザ様へお礼をしたくて、アリステル公爵家を訪問したはずだった。

 お礼の治癒魔法をかけていると、なんと帝国の皇太子がやってきた。アリステル公爵夫妻はそれぞれ出払っていて、他に対応できる家人がいない。特に約束はしていなかったそうでイライザ様も困惑していた。

「それではお礼にはまた後日まいります。イライザ様はどうか皇太子殿下の対応をしてください」
「ラティシア様、本当に申し訳ございません。帝国の皇太子ともなると、わたくしではお断りできず……」
「いいえ、気にしないでください。私はいつでも来られますから」

 そう言って、イライザ様の部屋の扉を開けようとした時だ。
 にわかに廊下が騒がしくなり、目の前の扉が急に開かれた。ドアノブに手をかけていたので、そのまま引っ張られてなにか固いものに思い切りぶつかってしまった。

 鼻から突っ込んだので、地味に痛い。痛みが引いたので、ぶつかった物を確認しようと視線を上げる。

「……った。って、えっ、も、申し訳ございません!」

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