婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「あ、かしこまらなくていいよ、今は公務の時間ではないから。言葉遣いも一般の患者と同じにしてほしい」
「ですが……」
「ラティシア嬢、それが僕の命令だと思ってくれないか?」
「はあ、わかりました。砕けた話し方になりますがご承知おきください。それではフィルレス殿下も、私のことはラティシアと呼び捨てにしてください」
「なるほど、わかったよ。そうだ、専属治癒士や騎士には報告した?」
いつもより砕けた印象の話し方でフィルレス殿下も対応してくれるようだ。少々肝は冷えるけど、もうすぐこの国から出ていく身だから気にしないようにする。
「それが私ひとりで治癒室の留守番をしていたのと、毒物を摂取されていたので安全な報告先がわからず、まだ誰にも話していません。ですがフィルレス殿下がここにいらっしゃることは、部下も知っています。それと、こちらは調査用に採取しておいたフィルレス殿下の血液です」
フィルレス殿下は誰かに暗殺されそうになったのだ。毒を盛られたと情報が広まることで、不利になるかもしれない。変化の魔法を使っていたことも考えると、安易に報告するのは危険だと思った。
「へえ、君は機転が利くね」
フィルレス殿下は毒に染まる血液の入った小瓶を受け取り、嬉しそうに笑みを浮かべる。
その神々しいまでの笑顔を見ても、自分の行く末を考えると気持ちは沈むばかりだった。