婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
エルビーナ様の泣き叫ぶ声に、両親を亡くした頃の自分が重なる。
まったく状況は違うけれど、自分ではどうにもできない事情で身動きができなくて、受け入れるしかなかった。泣き叫びたくても、重くのしかかる重責で泣くこともできなかった。
「……フィルレス様。お願いがあります」
「お願い? なんでも言って」
「エルビーナ様を留学という名目で、この国で預かれませんか?」
「……本気で言ってる?」
フィルレス様は眉をひそめ苦い顔で聞き返してくる。そうなるのも無理はない。エルビーナ皇女には散々嫌な思いをさせられたのだから。
「なによっ! 貴女の慈悲をもらうなんて、まっぴらよ!!」
「ですが私は……エルビーナ様は家の都合で振り回されただけなんだと思いました」
キッと睨みつけるように翡翠の瞳を私へ向ける。エルビーナ様は現在十八歳。ちょうど私が両親と兄たちを亡くしたのと同じ年頃だ。大人のようで、でも精神的にはまだ未熟な部分もある。