婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

もう腹黒王太子から逃げられません


 私は喝采を浴びる中、真っ先にフィル様のもとへ駆け寄った。フィル様は嬉しそうな笑みを浮かべている。

「ラティ、おめでとう」
「フィル様、やりました! 私、全部合格しました!!」
「うん、そうなると思っていたよ」
「そうなんですか?」

 そう言われてみると、嬉しそうにはしていても驚いた様子はない。あれだけルノルマン公爵の判定試験は手を抜いたレポートだったのに謎だ。
 私が考え込んでいると、フィル様が私にだけ見せる顔でニヤリと笑う。

「僕が負ける勝負を提案すると思う?」
「……いいえ」
「はははっ、久しぶりにその顔を見たな」

 そうだった。フィル様はこういう人だった。きっと最初から、どれだけ私が足掻いてもフィル様が勝つような勝負だったのだ。
 私の性格を把握したうえで、裏から審判(ジャッジ)たちを操り、巧みに私が合格ラインに到達するよう誘導したのだ。
 半眼で睨みつけたら、楽しそうに笑い返された。

「…………」
「ラティ」
「……なんですか?」

 急に真剣になったフィル様の言葉に、むくれながらも返事をする。
 石鹸の香りがすると思ったら、抱き寄せられていた。

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