婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
フィル様と一緒に私の私室へと一度戻ってきた。みっともないことに涙の跡が残って、ぐしゃぐしゃの顔だったし、ドレスもバハムートに乗ったからしわだらけになっていたからだ。
こんな自分でフィル様に告白したり、判定試験に合格したり、フィル様と口づけしたのかと思ったら、気が遠くなりそうだった。
「ラティ、どうしたの? ああ、さすがに疲れたよね? 今日は急ぎの政務もないし、このまま部屋で休もう」
「はい……ちょっと精神的ダメージが大きいので、お願いします……」
フィル様の優しさが心に染みる。私が好きだと自覚してからは、フィル様と一緒にいることが心地いい。いつも私を見てくれて、些細な変化も気が付いてくれる。そして欲しい時に欲しい言葉をくれるのだ。
フィル様には少し待ってもらって、身だしなみを整えた。ドレスも着替えてフィル様の待つ部屋へ戻る。
「フィル様、お待たせしました」
「あれ、着替えてきたの? ふふ、このドレスもよく似合っているね。僕の瞳の色だ」
フィル様は愛おしそうに空色の目を細めて私の手を取ってソファへ誘導する。侍女たちはすでに下がっていて、いつもは側近として仕えているアイザック様も、皇太子たちの今後について手配している最中だ。
この部屋には私とフィル様しかいない。