婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「では早速、言ってくれるかな?」
「さっき言いましたけど?」
「衝撃的すぎて、記憶が飛んだからもう一回、ね?」
「えええ! それ、絶対嘘ですよね!?」
うっとりするような笑みを浮かべたフィル様は、私をまっすぐに見つめる。
「ラティ、愛してる」
「待ってください……もう! 私も、フィル様が好きです」
鼻が触れてしまうほどの距離で、私だけに見せる熱のこもった視線に逆らえない。まだ私からの愛情表現が慣れなくて、顔も耳も首も赤く染まってしまう。
「ラティ、僕は愛してるよ?」
これは……つまり、好きでは足りないということ? でも、つい最近気持ちを自覚したばかりなんだけど。
それでも、フィル様が望むなら。
「あ……あ、あー、あ、愛、して、ます」
言い終わるないなや、先程のキスが子供のままごとだったと思うほど、深く深く貪られた。
終わらない深い口付けに力が入らなくなって、フィル様の逞しい胸板にもたれかかる。
満足げに微笑んだフィル様は、ポツリとつぶやいた。
「……僕の月の女神。一生離さないから」
空のように澄んだ瞳で見つめられて、私は思う。
もうこの腹黒王太子から、逃げることなどできないのだと。