婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
『いや、普通に口説いても無理だろうね。おそらく元婚約者の件がトラウマになっているのだろう。そうでなければ、あの美貌と性格で未だ独身な訳がない』
『確かにとても魅力的な女性で——』
治癒してくれた時の印象を思い出しながら、ラティシア・カールセンについて所見を述べようとした。
それだけなのに、フィルレス様が過剰なまでの反応を見せる。
『アイザック、もし僕のラティシアに不埒な感情を抱いたら、お前でも容赦しない』
『フィルレス様、ただラティシア様を褒めただけです。誤解しないでください』
『……そうか、すまないな。ラティシアのことになると、どうも短気になってしまうようだ』
こんなにもひとりの女性に対して感情的になるフィルレス様なんて、誰が想像しただろうか? あの性悪皇女とも微笑みを浮かべたまま婚約したくらいだぞ。
これは、もう決まりだろう。ラティシア・カールセンは後の王妃となるに違いない。
しかもフィルレス様はすでに専属治癒士として任命すると手配していたようで、あとは婚約の手筈を整えるだけだった。ここでラティシア・カールセンが、月の女神の末裔だったと判明した。
この事実をもとにフィルレス様が国王を円満に説得した。……まあ、それがなくても実力行使でもぎ取ってきたと思うが、今後のことを考えれば円満解決に越したことはない。
もしかしたらラティシア様は、この国にとって……いや、フィルレス様にとって救済の女神なのかもしれない。