婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
見事ラティシア様を婚約者にしたフィルレス様は、それはもうご機嫌な毎日を過ごしていた。途中、ラティシア様に助け舟を出そうとしたら、かなり本気の殺気を向けられるくらいご執心されている。
だけどあの性悪皇女が戻ってきてから、フィルレス様はラティシア様のいないところで毒を吐きまくっていた。
「ラティシアが足りない。もう無理、限界。あの女やってもいいか?」
「物騒なことを言わないでください。そんなことをしたらラティシア様とますます会えなくなりますよ?」
「僕が世界の王になれば問題ない」
きっとそれはラティシア様が望まれないだろう。
近くで見てきてわかったが、ラティシア様には欲がない。今ある現実から幸せを見出そうとされるお方だ。ここはこっそり助け舟を出すべきか。
前回は俺の立ち回りが悪くて味方になれなかったことが、ずっと気になっていたのだ。
「王太子妃でもイヤイヤな様子のラティシア様に、それは酷です」
「はあ、くそっ! あの性悪女、絶対に許さない……!」
「ほどほどにしてくださいね」
私の最後の助言は耳に届いていないようだ。
まあ、俺が王太子妃として認めるのはラティシア様だけなので、よしとしよう。それにあの性悪皇女はラティシア様を悲しませていたから、俺も許し難い。
隣で悲しげにフィルレス様を見つめるラティシア様が、不憫でならなかった。
この頃には、フィルレス様や民の心に寄り添うラティシア様を、未来の王妃として敬愛していた。