婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「そんなことして我慢できるんですか?」
「……無理。僕を好きだと言ったラティの寝顔見て我慢できるわけがない」
「それなら結婚するまで我慢ですね」
これで耐えてくれるだろうか? 衝立を隔てた向こうで想いの通じ合った相手が眠っているなど、生殺しもいいところだが仕方がない。
「……先に婚姻宣誓書を提出しよう」
「それをやったら、さすがのラティシア様も口を利いてくれなくなると思いますが」
「こんなところでトラップが発動するとは思わなかった」
頭を抱えて真剣に悩むフィルレス様に笑いが込み上げる。
隔離塔でともに過ごした俺たちに、こんな平和な時間が訪れるなんて思ってもみなかった。まるで死ぬならお前たちだけで死ねというような状況で、それでも俺はフィルレス様を弟のように、母は俺と分け隔てなく可愛がってきた。
フィルレス様は無事に成長して、生き残るために策略と影を手に入れ、周りの人間を信じられなくなっていた。だけど俺はフィルレス様に、心から安らげるような幸せを手にしてほしかった。
その願いがやっと叶ったようだ。
まあ、でも、あの腹黒いフィルレス様もラティシア様が関わると冷静さが吹き飛ぶから、これからも密かにフォローしていこうと思う。