婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「そうですよ……今までのツケが回ってきたみたいにハードなんです! たまには私にも癒しをください!!」

 しまったと思った時には、フィル様はなにか考え込んでいる様子だった。私よりよほど忙しくしているフィル様に話す内容ではなかったと、訂正しようと口を開きかけた。

「そうだね。僕ばかり癒されてるのも申し訳ないし、いいよ。ほら、おいで」

 そう言って、フィル様が両手を広げて微笑んでいる。
 これは……抱きしめてくれるのか? 最近は我慢できなくなるからと、以前のような触れ合いはなくなっていた。

 なにが我慢できないのか聞いてみたけど、まったく教えてくれなくて、私も淋しいけれど我慢するしかなくなった。

 だからフィル様の言葉に驚いた。

「えっ! 本当に……?」
「うん、ほら、早くおいで」

 おずおずとフィル様の膝のうえに乗る。前みたいにフィル様の首に腕を回してぎゅっと抱きついた。
 慣れ親しんだ、爽やかな石鹸の香りがふわりと香る。

「いつも頑張ってて偉いね。ラティは僕の自慢の婚約者だよ」
「うっ、うう……」
「泣くほどつらかった?」

 ぽろりとこぼれた涙は止まらず、フィル様を心配にさせてしまった。そうではないと、自分の気持ちを正直に話す。

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