婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 一ミリも表情を変えず言い切るが、具体的なことは口にしていない。フィル様と出会ってもう半年が経つ。最近ようやく、フィル様のやり口を掴めてきたところだ。

 フィル様は決して嘘は言わない。
 だからこそ話には信憑性があるし、辻褄が合わなくなることもない。ただ意図的に情報を隠して、時にはうまくミスリードを誘うのだ。

 今までの私なら自分なりに解釈して、日に一度か二度、政務が落ち着いたタイミングでと受け取っていたと思う。

「それでは具体的な答えになっておりません。正確な情報をお願いします」
「懸命に学んでいるラティの邪魔をしたくないから、あえて具体的なことは伝えたくないんだ。わかってくれる?」

 この流れはまさに、貴族たちを煙に巻くときのやり方と同じだ。君のためだと言いつつ、はぐらかしている。

「フィル様。正しく教えていただけないのでしたら、朝昼晩の愛の言葉はなしにします」
「えっ!? なんで!? それは僕が耐えられない!!」
「では、正しい情報をください。もし嘘をついたら、一生愛の言葉は口にしません」

 愛の言葉を伝えないなんて卑怯かと思うけど、正直に話してくれないのだから仕方ない。これは交渉術の一環だ。

「ラティが僕の急所を容赦なく突いてくるなんて……ははっ、これも妃教育の賜物かな」
「…………」
「はあ、わかったよ。ええと、昨日は五回、一昨日は七回、その前は八回で、平均すると七回前後かな」
「……一度の時間は?」
「これも平均すると二十分くらいかな。ラティを見ているとあっという間なんだ」

 日に七回、二十分ずつ使っていたら、およそ二時間半になる。しかもそこまでの移動時間も考えると、四時間くらいは無駄な時間を過ごしていることになる。

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