婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「あははっ、わかります! 私も今は元婚約者に対してそんな気持ちです。あんな浮気男なんていりません!」
「僕も傲慢でわがままなだけの姫はもういいかな」
「ふふふっ、そうですね。フィルレス殿下にはもっと心優しくて、真面目で、こんな風に愚痴を聞いてくれるお妃様がお似合いです」
「そうだね、本当にそう思うよ」
そう言って、フィルレス殿下はジッと私の顔を見たまま動かない。
「フィルレス殿下? どうかしましたか?」
「……いや、なんでもない」
ぱっと穏やかな笑みを浮かべたフィルレス殿下は、その後もいろいろな愚痴を聞かせてくれた。
フィルレス殿下の気の済むまで話を聞いて、もうすっかり元気になったようだ。会話しながら観察していたけど、毒の影響もないようだし、もう大丈夫だろう。
「それではこれで問題ないとは思いますが、念のためもう少しお休みになってから動いてください。どなたかに知らせを出しますか?」
「いや、変化の魔法をかけてひとりで勝手に出ていくよ。ラティシア、本当に今日は助かった」
「いいえ、それでは、私はこれで失礼いたします」
フィルレス殿下に一礼してから特別個室を後にした。
国外追放のお願いをし忘れたと気が付いたのは、宿舎に戻ってからだった。