婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
最近はバハムートがこの山に頻繁に様子を見に来ているらしく、魔物の動向も落ち着いていると聞いた。リードさんも頼もしいから、これからは心置きなく私のお役目に専念できる。
ひと際高い山に登り、少しひらけたところでひと休みした。倒木に腰掛け空を見上げると、もう太陽が沈みかけている。
こうなるとすぐに暗くなって、闇に包まれるのは早い。フィル様がランプに火を灯してくれた。
「本来は馬で領地を回るのですが、フェンリルのおかげで小回りが利くので細部まで見られて助かります」
「意外と役に立つね。契約しておいて正解だったな」
《主人、意外とって失礼だぞ! オレは神獣なんだからな!》
「そうよね、フェンリルのこの毛並みのおかげで夜もぐっすりだわ」
私の言葉でその場の空気がピシッと凍りついたような気がした。
フェンリルはガタガタと震え始めたし、フィル様の目が笑っていない。どうしてこんな空気になっているのか、意味がわからずポカンとしてしまった。
「ちょっと、それどういうこと? 僕が隣で寝ているのに犬の毛並みのおかげって?」
《ラティシア! 主人の前でそれは……!》
「ふたりとも、帰ってからじっくり聞かせてくれる?」
「はい……???」
《はい……》
フィル様がなぜかお怒りのようだ。
ただ、風呂上がりにもふもふを堪能してから眠るのが、そんなにダメだなのだろうか? フェンリルまで涙目で訴えかけるように見つめてくる。