婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 どうしよう、フィル様とフェンリルの言いたいことがわからない。
 そんな私を見て、ふたりはなにかヒソヒソと話し出した。空気の読めない私に呆れてしまったのだろうか?

「……はあ、どうやってラティに理解させようか」
《主人、ハッキリとヤキモチだって言わないとわかんねえと思うぞ?》
「……それは僕が狭量だと言ってるのと同義だろう」
《いや、思いっきり狭量だよな?》
「フェンリル。お仕置きされたくないなら黙れ」
《……っ!!》

 会話が終わったのかと思ったら、フェンリルはビクッとしてフィル様の影の中に隠れてしまった。こうなったらフィル様が呼び出すまで出てこないだろう。

「申し訳ありません、私の理解力が足りず……」
「ああ、ラティは悪くないよ。内緒話みたいになってごめんね、少し静かにしていろと言ったんだよ。ラティとふたりきりになりたくてね」
「そうだったのですか。あの、私に呆れていたのではないですか……?」
「まさか! 愛情が募ることはあっても、呆れるなんてことはないよ。ただ……」
「ただ?」

 フィル様の真剣な眼差しが、私を捕らえて離さない。

「ラティはもっと僕だけを見て」

 そのひと言に込められた想いは、フィル様がいつも隠している本心だと思った。

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