婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
翌朝、いつものように治癒室へ出勤すると、エリアス室長が難しい顔をして席に座っていた。
「おはようございます」
「ラティシアか。おはよう」
私の顔を見たエリアス室長は、眉間にシワを寄せたまま手元の書類に視線を落とす。
「……もしかして、昨日の?」
「ああ、今朝一番で君を執務室に寄越せと、王太子直筆の通達がきている」
「承知しました。ではすぐに向かいます」
出勤早々、重く沈んだ表情のエリアス室長から一枚の紙を手渡された。
処分を言い渡すためにわざわざ執務室へ呼び出すなんて、よほどお怒りなのかと肩を落とす。昨日は楽しく会話していたけど、やはりフィルレス殿下の身体に勝手に触れたのが許されなかったのだろう。
昨日のうちにエリアス室長には経緯を報告してあったから、この通達の意味は理解されているようだ。
「エリアス室長。本当にお世話になりました。今までありがとうございます」
「まったく、なぜこのようなことに……」
目元を覆う手はわずかに震えていた。お世話になってばかりで、最後にこんな迷惑をかけてしまった。まずはエリアス室長をはじめ、治癒室のみんなが困らないようにお願いしてみよう。それで私が牢屋行きになったとしても仕方ない。