婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
きっかけは偶然だったけれど、やっと実力が認められたのだ。どんな悲しみに見舞われても、ひどい裏切りにあっても前を向いて続けてきてよかった。
治癒士としての誇りを胸にやってきた。それは間違いではなかったのだ。
「はい! 治癒室に来ていただければいつでも治療いたします! 事前にお知らせいただければ時間の調整も……」
「それなら心配ないよ。専属治癒士として任命するから、こちらに専念できる」
また紅茶をひとくち含み、フィルレス殿下は私を真っ直ぐに見つめて微笑んだ。
「むしろ手放せないくらいに気に入ったんだ。だから僕だけの専属治癒士になってほしい」
その言葉が大袈裟に感じたけど、ありえない話に現実味が湧かない。
「だからね、ラティシア。これからも僕を癒してくれるかな?」
そう言って微笑むフィルレス様は、端正な顔立ちも手伝って神々しい光を放っていた。
穏やかな人柄というのもあり今の私には神のような存在だけれど、体調がよくなったおかげか輪をかけて美しくなった様な気がする。
私はやっと手に入れた希望あふれる未来に、力強く頷いた。