婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
——あの日、一通の手紙で私の人生は大きく変わった。
五年前のことだ。当時十八歳だった私は王立学園に通っていて寮住まいだった。その日は真夏の太陽が地面を灼くように照りつけていた。
領地経営をしっかり学ぶため特別講習を選択していた私は、夏季休暇であったけれど寮に残って課題をこなしていた。
そこへ領地から火急の知らせが届いたので、慌てて馬車を乗り継いで故郷へ戻った。
久しぶりに見た屋敷を懐かしく思う暇もなく、執事長から受け取った手紙に目を通していく。
「え……嘘、こんなの嘘よね……?」
私は震える声をなんとかこらえ、このカールセン伯爵家で三十年も執事長を務めるトレバーに尋ねた。全身から力が抜けそうなのをなんとか踏ん張り、グシャリと握り潰した上質な紙から視線を上げる。
「ラティシア様……」
「そんな……お父様たちが事故で亡くなったなんて——」
今回は帝国を拠点にしている商会と取引の契約をするために帝都へと向かっていた。
お父様とお母様、それに双子の兄も同行していて、山を越える際に落石に巻き込まれて、全員亡くなったという知らせだった。ほぼ即死だったと書かれている。
「嘘でしたらどんなによかったことでしょう……私も何度も確認したのですが、事実でございました」
「そんな……」