婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
やたらニコニコと機嫌のいいフィルレス殿下は、王族として専用の入り口から会場に入る。専属治癒士として素直についていくと会場には高位貴族から地方の貴族までが集まっていた。
その状況に驚いたが、すぐに国王陛下が入場してきて高らかに宣言する。
「皆、本日はよく集まってくれた。今日は大変めでたい知らせがある!」
国王陛下の声が会場中に届いて、ざわめきが広がった。私は重大発表があるからこの衣装に着替えたのだと納得して、国王陛下の次の言葉を待つ。
「王太子フィルレスの婚約者を紹介する! ラティシア・カールセンだ!」
いっせいに会場中の視線が私に集まる。静かに深呼吸して、国王陛下のお言葉を頭の中で反芻した。
ちょっと待って、『王太子フィルレスの婚約者を紹介』? それが『ラティシア・カールセン』?
は? はああああああ!? なぜ!? どうして!?
この状況で違うとも言えず、昔鍛えたアルカイックスマイルを貼り付けるしかできなかった。
これでも伯爵令嬢として受けてきた教育が身に染み付いていた。走馬灯のように厳しかった淑女教育が脳裏をよぎる。両親は私のためにとそれはもう厳しく礼儀作法を教え込んでくれた。
ああ、本当に努力は裏切らないな、先生はお元気かしら?と現実逃避したくて的外れなことを考えていた。