婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
いきなり地獄に突き落とされたようだった。
だって、旅立つ時はみんな楽しそうに笑っていた。お土産をたくさん買ってくると双子のお兄様たちは笑っていた。商談がまとまったら、私にドレスを買ってくれるとお父様とお母様は約束してくれた。
残されたのはもうひとり、義妹のビオレッタだ。
本当はひとつ年下の従姉妹なのだが叔父夫婦が事故で亡くなり、我が家の養子にしたのだ。叔父の結婚相手の連れ子なので、私とは血縁関係はない。
ビオレッタも一緒に出発する予定だったが、体調を崩してしまい同行するのを見送った。おかげで命拾いしたのだ。
私にとっては血の繋がりがないとはいえ、頼れる家族がいて心強かった。
その時は心からそう思っていた。
「お義姉様、どうしたの? 顔色が悪いわ」
「ビオレッタ……! ねえ、落ち着いて聞いてほしいの」
「ええ、いったいどうしたの?」
私はビオレッタの白魚のような手を取り、ギュッと握る。
「お父様たちが……帝国で事故にあって亡くなったの……」
「……っ! それは本当なの!?」
「ええ、間違いないそうよ……それでね、これからのことなのだけど——」
本当は泣き叫びたかった。
事故なんて嘘だと、お父様とお母様とお兄様たちを捜しに行きたかった。
でも、どんなに涙を流しても、どんなに神様に祈っても、家族は戻ってこない。