婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
そこで僕は湧き上がる真黒な感情を込めて宣言した。
『僕の大切な人たちだ。ぞんざいに扱ったら次は王都ごと消す』
温度のない瞳で睨みつけると両親は青ざめた顔でガタガタと震えながら、正当な報酬を払ってルース親子の生活を生涯保証すると約束してくれた。ここで僕が手に負えない化け物だと理解したらしい。
それからアイザックは知識も豊富で頭が切れるし、なにより信頼できる乳母兄弟だったから、そのまま僕の側近として教育してもらった。
その後は快適に過ごせるようになったけど、この国の王子だという自覚はあったので努力を続けてきた。
王太子として僕はさらに高度な教育を受けた。特別楽しくはなかったけれど、周りが求めるままいつも完璧でいるために淡々とこなしてきた。
朝は五時から起きて早朝の勉強をして、午後からは剣術で体を鍛える。寝る前に魔法の練習をして、限界まで体力を使う毎日だった。
なんでもできて当たり前。王太子だから常に笑顔を絶やさない。誰にでも公平に平等に。心はいつも穏やかに。でも王族としての威厳を損なわず、凛とした振る舞いもしてみせた。
僕が隙のない王太子を続けることでルース親子を守ることにもなる。そうやって積み上げてきた結果、夜会のために集まった臣下の前で帝国の皇女から婚約破棄された。