婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
魔力は膨大だけれど、僕には治癒魔法の適性がない。だから王城の私室には、さまざまな毒に有効な解毒薬や回復薬を用意してある。
すぐに王城へ戻れば問題なかったけど、街で火災が起きて延焼しないように魔法を使っていたら思ったよりも時間が経っていた。
魔法を使ったうえに私室へ戻れず毒が回ってしまい、意識を保っているのがやっとだった。部屋まで持ちそうになかったから、なんとか王城の治癒室へ向うことにした。
そこで僕はひとりの治癒士と出会った。
ようやく治癒士に診てもらえると思った矢先に限界がきて、そこで記憶が途切れていた。気が付けば見知らぬ部屋で、清潔なベッドに寝かされている。
「お目覚めですね、フィルレス殿下」
落ち着いた声で優しく名を呼ばれ視線を向けると、女性治癒士が穏やかな笑みを浮かべていた。
「ここは王城の治癒室です。治癒魔法で毒を除去しましたがご気分はいかがですか?」
「あっ、そうだ! 僕は——」
毒を盛られたのにすんなり起き上がれたし、どこも苦しくない。あれほどの毒を治してくれたのか……?