婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
第一部 第二章 婚約の解消を希望します!
王太子は腹黒でした
王太子の婚約者発表の場をなんとかやり過ごし、フィルレス殿下の執務室まで戻ってきた。
扉がしっかりと閉じられたのを確認して、思いっきりフィルレス殿下に詰め寄る。
「どうして! ただの治癒士の私が! フィルレス殿下の婚約者になっているのですか!?!?」
フィルレス殿下はきょとんとした顔で、首元のクラバットを緩めた。そんな仕草も様になっていて、無性に悔しい。
「昨日、専属治癒士になると契約書にサインしただろう?」
「確かに契約書にサインしましたが、あれは機密保持や雇用契約の書類じゃ……」
「うん、もちろんそういった内容もあるけど、ここを読んでいなかったのかな?」
フィルレス殿下は、執務机の引き出しから昨日の書類を取り出してパラパラとめくり、ある箇所を指差した。
そこには、ふたまわりは小さい極小の文字で【尚、フィルレス・ディア・ヒューレットの婚約者となることを了承する。】の文字がある。
「はあああ!? なんですかこれ!? こんな小さい字でわかるか——!!」
驚きのあまり、ここがフィルレス殿下の執務室であることも吹っ飛び、心の底から叫びを上げた。