婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 フィルレス殿下の執務室を出て、どんどん王城の奥の方へと進んでいく。
 警備している騎士は相変わらず近衛騎士だ。次第に人影が少なくなり、騎士たちしか見かけなくなった。

「フィルレス殿下、どこへ向かっているのですか?」
「僕の部屋がある居住区だ」
「はい!?」

 なぜ、王族の居住区へ!? なんだか人がいないなと思ったし、フィルレス殿下自ら案内してくれた理由にも納得してしまったけど、まさか王族の居住区なんて場違いにも程がある。

「ラティシアは僕の婚約者でもあるし、専属治癒士だからね。二十四時間そばにいないと業務をこなせないだろう?」
「専属治癒士とは言っても、交代制が普通ですよね!?」
「……ラティシア、契約書はしっかりと読んだ方がいいよ」
「——っ!!」

 なんてこと!! まだ確認できていない項目があったの!?
 あまりのショックでなにも言えなくなる。

「ほら、ここがラティシアの部屋だよ。僕の方でひと通り揃えたけど、気に入らなかったり不足があればすぐに言ってほしい」

 そう言ってフィルレス殿下に案内された部屋は、アイボリーを基調に落ち着いた装飾の家具でそろえられていた。ソファは見た目こそ派手でないけれど、生地の手触りが抜群で硬すぎず柔らかすぎず私にはちょうどよい。
 壁紙は草花模様の淡いグリーンで落ち着く空間になっていた。

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