婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
「ラティの健康チェックならいつでも大歓迎だよ」
「そうですか」
「だってじっくりと見つめ合えるだろう?」
「はい、終わりました」
「つれないラティもたまらないね」
しつこい患者様に対応するようにしたけれど、なにも堪えてないらしい。むしろ普段見ることのない熱を孕んだ瞳で見つめ返されて、この性格を知らなければうっとりしてたかと思うと腹立たしい。
「ラティ、昨日は隣に君がいると思うとなかなか眠れなかったから、疲れが取れていないんだ。早速だけれど治療を頼めるかな?」
「……承知しました」
「助かるよ。ではそちらのソファに座ってくれる? できるだけ端に座ってほしい」
「端にですか? かしこまりました」
私がソファの肘掛けにぴったり添って座ると、すぐ隣にフィル様が腰を下ろした。
「……あの、フィル様。これでは距離が近すぎます」
「だってそうしないと、すぐに距離を取られてしまうからね」
「ちょっと、これでは近すぎて……」
「うん? なにか言ったかな? ちなみにこの距離感も僕を癒す要素になっているから、業務命令だと思って欲しいな」
「業務命令」
「だから残念だけど、ラティに拒否権はないね」
「……承知しました」
ため息を吐き出したいのをこらえて私はフィル様の手を取り、『癒しの光』を発動させる。途端に淡い白光が私の両手からあふれて、部屋の中を照らしていった。