婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 魔鉱石とは魔力が豊富な鉱山で取れる、魔力を取り込んだ特殊な鉱石のことだ。主に魔道具の材料や、見た目がいいものは装飾品としても使われる。魔力を含むため使用者の魔法の効果を強くしたり、魔力が少ない者でも中級の魔法が使えるようになったりするものだ。

 その分、価格も高くなる。魔力のない鉱石の三倍から十倍が一般的で、物によっては桁が二つくらい違うのだ。ちなみに婚約発表の際につけさせられたブルーダイヤモンドの装飾品も、当然のように魔鉱石だった。
 何事もなく返却できて心の底からホッとして、深くて長いため息がこぼれた。

 ——コンコンコン。

「ラティシア様」

 そこでノックの音が響き、ドレスの着付けをしてくれた侍女のひとりが声をかけてきた。慌ててバハムートには隠れてもらう。

「はい! どうぞ入ってください」
「フィルレス殿下が寝所に入られました。ご移動をお願いいたします」
「……わかりました」

 バハムートとの楽しいおしゃべりの時間もここまでだ。侍女が出ていったのを確認して、バハムートにお礼を言って「また明日」と手を振った。

 私は覚悟を決めて、寝室の扉を開く。

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