婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 ふわりと上品で優しい香りが漂ってきた。部屋の中央には衝立があり、部屋の半分しか様子がわからない。それでも調度品はダークブラウンでまとめられ、複雑で上品な飾り彫が施されている。用意されたベッドは適度な弾力があり、肌触りが極上の寝具が疲れた身体を包み込んでくれた。
 いつも私が部屋に入るとフィル様が声をかけてくれる。

「ラティ?」
「はい、お待たせいたしました」
「いや、待ってないよ。今日も一日お疲れさま」
「お疲れさまでした。では、おやすみなさい」
「あ、そうそう」

 この日も同じだったけど、いつもと違うのは会話が終わらなかったことだ。珍しいなと思いながら、私はフィル様の言葉を待った。

「明日は治癒士の制服ではなくて、侍女が用意するドレスを着て出勤してほしい」
「ドレスですか?」
「うん、明日から判定試験を始めるから、しばらく制服は封印だね」
「判定試験……!」

 ついに始まるのだ、私の命運をかけた判定試験が。これできっちりと不合格をもらうしか、婚約の解消ができない。もう私に後はない。

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