婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「承知しました。約束を忘れないでくださいね」
「もちろん。でも、きっとラティなら大丈夫だと思うよ」
「なにが大丈夫なのですか?」

 嫌なことを言わないでほしい。まるで合格するから大丈夫だと言われているみたいではないか。義妹に婚約者も伯爵家も奪われて、治癒士として生きてきた私は平穏な生活を送りたい。
 信用できない伴侶なんて不要でしかない。

「……僕はラティに会えて、世界が変わったんだ」
「そんな大袈裟です」
「大袈裟なんかじゃないよ」

 今日はフィル様の様子がいつもと違うみたいだ。フィル様が心の内を語るのは、治癒室以来ではないだろうか?
 どう返そうか迷っていると、フィル様が言葉を続けた。

「僕は間違いなくラティという存在に癒されている。最近はよく眠れてるから、身体の調子もいいんだ」
「そうでしたか。睡眠は大切ですから」
「本当に眠れるようになってからわかったよ。ねえ、ラティ」
「なんでしょう?」

 いつもの口説き文句かと思って、その辺はスルーしながら会話を続けていく。こういうやりとりも少しづつだけど、慣れてきた。

「もしかして男性を信じるのは怖い?」

 いきなり核心を突かれた。

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