婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
それは怖くないと言ったら嘘になる。
だって、私の心の傷はまだ癒えていない。見ないふりをしているだけで、ずっと血を流し続けているのだから。
私はもうあんな風に傷つきたくない。
「それは……」
「これだけは言っておきたいんだ」
一瞬、言葉が途切れる。
「なにがあっても、僕の気持ちは変わらないから」
「…………」
そんなの嘘だ。
マクシス様だって似たようなことを言っていたくせに、義妹に乗り換えたのだ。しかも私を騙して実家もなにもかも奪って、義妹と一緒になって追い出したのだ。
「そろそろ寝ようか。おやすみ」
「……おやすみなさい」
フィル様の言葉に、心が揺れた。
気持ちが変わらないなんて、あるはずない。
たったひとりの相手を愛し抜くなんて、そんな男性がいるなんて信じられない。
永遠の愛など幻想なのだ。
あまりにも深い心の傷を癒すには、時間だけでは足りなかった。もう五年以上経つのに、私は一歩も前に進めていない。
仕事に打ち込んで、深すぎる心の傷はずっと見ないふりをしてきた。
それが一番心地よかったのだ。
だからお願い、私の心にこれ以上入ってこないで。
——もう傷つきたくないから。
頭まで毛布をかぶって、明日の判定試験のことを考えながら眠りについた。