婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
拷問のような朝食を終えて執務室へやってきてすぐ、アリステル公爵家からの審判が到着した。
現れたのは燃えさかる炎ようなウエーブの赤髪に、輝くような金色の瞳、絹のような真っ白な艶のある肌。メリハリのあるスタイルを存分に活かす、黒のレースで飾られた深い青のドレスを身にまとう傾国の美女だ。
「わたくし、アリステル公爵家からまいりました、イライザ・アリステルと申します。この度は僭越ながらフィルレス殿下の婚約者である、ラティシア様の判定試験の審判を務めさせていただきます」
——イライザ・アリステル。
その名前を聞いて、私は胸が躍った。彼女はこの国で一番有名な貴族のお嬢様だ。
傲慢でわがままで、人を人とも思わない冷酷な悪女。それがイライザ・アリステルだ。
もしかして、もしかすると、一回目の判定試験で不合格がもらえる!?!?
これほど評判の悪女であれば、きっと私にも嫌がらせをしてくるに違いない。前に患者としてやってきた他のご令嬢から、イライザ様の噂は聞いたことがある。
うまく立ち回れば、一発アウトになるかもしれない。そうなったら私の未来は安泰だ。
また、あの居心地のいい世界に戻れるのだ。