婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
挨拶もそこそこにテーブルに着こうと、イライザ様に背を向ける。複数のテーブルが通路をあけて並んでいて、フィル様はそのなかのひとつに目をつけたようだ。
「ラティ、ここでお茶をいただこう」
「はい……ですがフィル様。椅子の空きはひとつしかありませんわ」
フィル様が声をかければ席を用意することができただろうけど、そのまま空いている椅子に腰を下ろした。
そして——
「大丈夫だよ。ほら、ラティは僕の膝が指定席でしょう?」
「そんな……! い、嫌ですわ」
「ラティ?」
作戦中だということを忘れて、本気で嫌がってしまった。笑顔のままのフィル様の無言の圧力に焦りながら、なんとか言い訳を考える。
「ごめんなさい、その、私恥ずかしくて……」
「っ! その不意打ちはずるいな。ラティの恥ずかしがっている顔が見たい」
「きゃっ」
優しく腕を引かれて、そのままフィル様の膝の上に腰を下ろしてしまった。
もう恥ずかしいのは間違いない。こんなご婦人たちが見守るなか、フィル様の膝に座りイチャイチャするなんて想像もしていなかった。
「ねえ、今自分がどんな顔しているかわかる?」
「わ、わかりません……」
でも顔と耳と首も赤くなっているのは理解している。心拍数は上昇して、呼吸も速い。おまけにフィル様の体温に包まれて、変な汗もかいている。ふわりと香る爽やかな石鹸の匂いに頭が痺れそうだ。