婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
宮廷治癒士になりました
その後、思いつく限りいろいろな部署に訴えた。
でもマクシス様の書類に不備はなく受理されていて、私の話を聞いてくれる貴族などいなかった。
例えおかしなところがあっても、マクシス様は公爵家の三男だ。公爵家が手を回したのか、誰も彼も口をつぐんで訴えても無駄だと突き放されるだけだった。
本当に悔しかった。だけど、なんの力もない私は泣き寝入りするしかなかった。
当然授業料など払ってもらえないので、あと半年で卒業だったけれど辞めるしかなくなった。
王立学園の先生に相談して、カールセン家の嫡子だと推薦してもらい、なんとか宮廷治癒士の仕事に就くことができたのは幸いだった。
王城ならば勤務者用の宿舎もあって、食事も格安で提供される。生きていくためには困らなかった。
しかし夜会での出来事はあっという間に社交界に知れ渡り、私が王城内を歩いているとよく意地悪をされた。
目の前で悪口を言われたり、無視されるのは日常茶飯事で、ひどい時だと水魔法でびしょ濡れにされる時もあった。
私の『癒しの光』は自分自身には使えない。もし怪我をしてしてしまったら、他の治癒士に治してもらうため正規の料金を払って依頼するのだ。
父と母と兄たちを失った心の傷も癒えぬまま、周りからも蔑まれる日々。
私は宿舎の狭い部屋で、幾度となく涙を流した。
家族を失った悲しみと、心細さ。
裏切られて誰も信じられない孤独感。
これからの暮らしに対する不安。
そんな感情を涙とともに流した。