婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。
ぼたぼたと大粒の涙を流して、愛しい人をきつく抱きしめるイライザ様の肩は震えていた。
「貴方がいなくなったら、わたくしは、わたくしは……っ!」
「イライザ、ごめん。本当にごめん」
「わたくしにはジルしかいないのよ……」
か細い声でつぶやかれた言葉に、胸の奥がキュッとなる。
イライザ様はどんな思いで審判を引き受けて、私のもとにやってきたのか。どれほど深くジルベルト様を愛しているのか。
本当に助かってよかったと胸を撫で下ろした。なのにアリステル公爵様が、大声でイライザ様を怒鳴りつけた。
「イライザ、護衛騎士が怪我をしたくらいで大袈裟だぞ!」
「お父様、ジルはわたくしの愛する人ですわ! 彼以外を夫にするつもりもありません!!」
「護衛騎士が公爵令嬢のお前の夫だと認めるものか! 身分もなにも——」
護衛騎士が怪我をしたくらいで? 護衛騎士だから夫だと認めない?
アルステル公爵様の言葉に、私はもう黙っていられなかった。