虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない

第3話 生贄ではなく花嫁?

(ええっと、これってもしかして生贄ですら私は及第点じゃない、ってこと?)
「確かに。こんなに弱って……。ハッ、ここに来る前にどこか怪我をしているのですか!?」
「あ、はい。ただ命に関わるほどの──」
「なんてことだ。アドラ!」
「御身の前に」

 いつの間にか燕尾服に身を包んだ執事風の竜魔人が傅いていた。みなねじれた角が二本あり、腰のあたりからトカゲに似た鱗のある尻尾が見える。羽根は邪魔なのか見当たらない。外見は三十代だろうか。セドリック様とはまた違った美丈夫だった。

「宮廷治癒士を応接室に呼ぶように。それと侍女長も」
「ハッ!」
「みな宴はまた日を改めて行うがよいな」
「ハハッ!!」

 みな恭しく首を下げた。
「怪我が早く治ったらお祝いをしましょう!」「ようこそ我が国へ」「歓迎いたします!」「セドリック様おめでとうございます!」
 非力で見窄らしい私に対しても気遣って温かい言葉や、笑顔を向けてくれる。その一つ一つがじんわりと胸に響く。

(これは夢? それともここが天国? だってフランが幼名だと名乗る竜魔王様がいるなんておかしいもの……)
「オリビア。本来であれば神殿で夫婦の契りを交わすのが条例ですが、先に手当をしましょう。痛くはないですか?」
「は、はい」
「貴女は昔から無理をしすぎるのですから、これからは私を頼ってくださいね」
「わかりました……」

 ひとまずこのまま生贄として殺されることはなさそうだ。安堵したような、いっそさっさと死んでしまった方がいいのでは──と思ってしまう。
 ふと熱い視線に気づき視線を向けた瞬間、セドリック様と目が合った。深い紺青の瞳に思わず吸い込まれそうになる。

 セドリック様は顔が緩み、あまりにも蕩けた笑みにドキリとしてしまう。そのせいで「神殿」や「夫婦の契り」などの単語を聞き返すタイミングを失ってしまった。もう色々なことが起こり過ぎて許容範囲を超えてしまったというのもある。

 一旦、状況を整理しよう。そう思っていたのだが、セドリック様に横抱き──つまりお姫様だっこされたまま、宮殿へと歩き出したため動揺してそれどころではなかった。

「オリビアは軽いですね。もう少しちゃんと食べないと」
(え、これは。なんの思惑が? 私が逃亡しないため……?)
「昔は私のほうが抱っこや抱き上げられていたのですが、ようやく貴女を腕の中で抱き抱えられて嬉しいです」
< 12 / 98 >

この作品をシェア

pagetop