虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない
生贄の連行なら兵士にさせればいい。私の服装はお世辞にも綺麗とは言えない。魔物の返り血も浴びている。
生贄になるまでは客人対応、来賓という扱いなのでは──と考えたが、それでも横抱きというのは距離感が近すぎる。何より先程から愛の告白めいた言葉がつらつら出てきているのは一体。
「今日のために部屋の充備は万端です。ドレスも色々用意したので、気に入ってもらえると嬉しいです」
(う……、曇りのない眼差し。本当に花嫁として迎えてくれたと勘違いしそう)
悶々と考えている間に奥の部屋へと案内された。恐らく王族の居住区域だろう。優美な扉を見た時から予感はあったが、調度品の質の良さとエレジア国王族の自室以上の広さにただただ驚く。
「今日からここがオリビアの部屋です」
「え。……あの、何かの間違いでは?」
どう考えも豪華すぎる。贅を凝らした空間に落ち着かず、拒絶反応がでそうになった。清潔感もあり、芸術的な鏡や、カーテンの値段を考えただけでも卒倒してしまいそうだ。
「もしかして狭すぎましたか? それともオリビアの趣味じゃないとか」
「いえ、そんなことはありません! あのできればランクをもう少し落とすことは──」
「わかりました」
(すんなり快諾してくれた。……よかった。こんな豪華な部屋、汚したら弁償代とか考えて落ち着けないし……)
「オリビアの希望を聞いたうえで、新たに宮殿を建てましょう。申し訳ないですが、今しばらくお待ちいただけますか」
「!?」
「違うそうじゃない」と叫びたかったが、そんなこと言えるはずもなく──けれどここで否定をしなければ、確実に宮殿が急ピッチで建てられてしまう気がした。
「あ、あの……セドリック様」
「宮殿の設計図関係は後々話すとしましょう」
「そうではなく……」
壊れ物を扱うようにそっとソファに降ろしてくれた。たったそれだけのことなのに、優しくされたことが嬉しくて泣きそうだ。「違う、きっと裏がある」と自分の心を必死で押し殺す。
もう期待しないと決めたのだ。
フランがいない世界に居てもしょうがない。
だから死ぬためにここに来た。心が揺れ動くたびに裏切られる生き方は、もう嫌だ。
覚悟はできているのに、体の震えが──止まらない。
震えるな。お願い、止まって。