虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない
仮にも王族を殺すと発言しないでほしい。私の反応にセドリック様は真顔でジッと私を見つめた。吸い込まれそうな深い青色の瞳に見惚れてしまう。
「もしかして、あの男を好いているのですか?」
「い、いえ……それはないです」
それを聞いて目尻が緩む。もしかしてクリストファ殿下に対して嫉妬したのだろうか。「よかったです」とセドリック様は抱きしめる。密着度がさらに増した。こんな風に私を抱きしめてくれる人は今まで誰もいなかった。
少なくともエレジア国では──。
「形だけとはいえ婚約者などと肩書をつけて……。やっぱり次に会ったら──」
「セドリック様……」
「はい。なんですか?」
「あ、あの……一度で構いません。フランの姿になることは可能ですか」
この三年、ずっと傍に居てくれた大切な友人であり家族だった。居なくなるとしても、せめてちゃんとお別れをしたい。そうしなければ、いつまでもフランの死を嘆いて立ち止まったまま、動けなくなってしまう。私とずっと一緒にいたオコジョのフランはいなくなってしまったけれど、もしフランがセドリック様でもあったのなら──。
私のことを本当に思ってくれる──だろうか。
少しだけ期待の眼差しをセドリック様に向ける。
「オリビア、竜魔人は生物形態の中で頂点に位置する存在です。けれど伴侶に対してはどこまでも甘く、願いを叶えたい生き物なのですよ。それをよく覚えていてください」
「は、はい」
淡い光に包まれ、その眩さに思わず瞼を閉じた。
恐る恐る目を開くと、真っ白なオコジョがソファにちょこんと座り込んでいる。小首を傾げつつも愛らしい姿に視界が歪んだ。
「フラン」
「きゅう」
腕の中でフランを抱きしめる。温かくて毛並みもモフモフして最高だった。
「フラン。ごめんなさい……私を守ろうとして、庇って……」
私は懺悔した。
あの時、何が何でもフランの傍に駆け寄るべきだった。
お別れも、今までの感謝も、なにも言えずに埋葬すらもできなかった。惨たらしい死を招いた元凶は自分だというのに──。フランは何事もなかったかのように私の肩に乗って頬に擦り寄る。そのまま私は涙が枯れるまで泣き続けた。