虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない
三年前、竜魔王の加護が消えたからか魔物の襲撃によって国民全てが石化し祖国フィデスは滅びた。叔父夫婦と私は偶然にも隣国のエレジアの領土にいたため石化から免れた──らしい。
ただこのあたりの記憶が曖昧だ。
なぜ隣国に居たのか、自国で私はどのような生活をしていたのかが殆ど思い出せない。日々、錬金術や付与魔法の研究をしていたような──森の大きな屋敷で暮らしていた──そんなぼんやりとした記憶だけしか残っていない。
叔父夫婦は王族に期間限定で保護を求め、その見返りに祖国の錬金術や魔法の技術を提示した。その結果、私の三年は回復薬、毒消し、美容の若返りなどの薬を調合で消えた。
魔法に関しては、魔物除け、魔法防御、物理防御などが付与された小物の注文が多く寄せられていた。これらの収入源は王族であるクリストファ殿下、そして叔父夫婦によって搾取され残った僅かな金額は魔導ギルドへの調査依頼へと送金していた。
「その魔導ギルドだが問い合わせたところ、そんな依頼は来ていないと言っていたぞ」
「え」
毎月、叔父夫婦に研究費を渡していたはず。そもそも魔導ギルド職員に屋敷まで足を運んでもらい、依頼内容もしっかり目を通し、署名捺印まである。だがそれすらもクリストファ殿下は否定した。
(まさか……。今までの叔父夫婦が豪遊に使ったのは、私が渡した研究費!?)
周囲を見渡すと叔父夫婦の姿が見えない。叔父は仕事だったとしても、夜会やパーティー、買い物以外は屋敷に居る叔母が居ないのはおかしい。
「そもそも百年以上前に滅んだ国を今更復興したいなど、何を考えているのだ」
「なっ──」
先ほどの言葉よりも衝撃的で、脳天を殴られたようだった。私にとって三年しか時が経っていないというのに、殿下との話が嚙み合わない。今更ながらに疑問があふれ出る。
(三年だと思っていたのは私の記憶違い? でも、隣国の街並みや雰囲気がだいぶ違うと感じたのは隣国だから──ではなく時代の違い?)
お茶会や社交界での会話に時々違和感があった。服装もより派手で洗練されたデザインになっており、建造物も隣国とは違い発展していると衝撃を受けた。
なにより私を屋敷に閉じ込めるように毎月山のような発注書が届く。そのせいで他に頭を回している余裕もなかった。錬金術や付与魔法は我が国では珍しくはなかったけれど、滅亡して百年が経っているなら失われた技術になるのでは?
竦まれて、何も知らない私を利用して、搾取し続けていた──?
「さあ、我が国の生贄、いや聖女として指定の場所へ案内しよう」
「クリストファ殿下、待ってください!」