虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない
***聖女エレノアの視点***
どこで選択を間違えたの?
転生して《愛憎の七つの大罪》をリアルプレイできると思ったのに!
シナリオの舞台となる隣国は滅んでいて最初から番狂わせでバグかと思ったけれど、聖女として覚醒して、推しのクリストファ殿下とも恋仲になった。
百年以上前、隣国の危機を救った魔導士オリビア。彼女の犠牲によって成り立った平和の上に私の知るシナリオは存在する。たった一人の生死によってこの世界は既に私の知るゲーム設定とはかけ離れた流れに突入していた。それが許せなかったからこそ、オリビアには三年間、無理難題を突き付けた。これは私の好きだったシナリオ展開をぶち壊した報いだ。
同姓同名というだけだったけれど、魔法と錬金術の腕を見て彼女が同一人物だというのはなんとなく察していた。でも誰にも言わなかった。あの女が陽の目を見るのは許さない。
そうやって虐げることに夢中で、オリビアがいなくなった後のことを楽観視していた。
私はヒロイン補正がある。だからどんなことがあっても最終的にハッピーエンドに繋がる──そう信じていた。
なのに……。
オリビアに全て押し付けて、生贄として差し出してから何かが狂っていく。最初からおかしかったのに、彼女がいたことで水際で防いでいたかのよう。
「ふざけるな。なぜオリビアの後継者が誰もいないんだ? 私は技術を盗むために魔導ギルドに依頼を出していただろう!?」
「だ、だって……後継者を付けたらオリビアの生産速度が遅くなるでしょう。だから後継者を作るよりも一つでも多く量を増やして儲けを増やそうと思ったのよ」
「三年で彼女がいなくなるというのも話していただろう。その後の事はどうするつもりだったんだ?」
「それは……私も魔力が増えてできることがあったから……大丈夫かなって。ほら、私はヒロインだし、そのぐらいのことはシナリオ修正が聞くと思って……」
あんなに優しかったクリストファ殿下は物に当たるようになった。私に対しても鋭い視線を向ける。それだけじゃない。私の聖女の力も衰えていくのを止められない。
「オリビアだったら」と日々、あの女の名前を口にする。
全部あの女のせいだ。百年以上前に死ぬはずだったのに!
どうすればいい?
どうすればハッピーエンドになる?
ふと思い出す。このゲーム世界での奥の手を。
(あ、そっか。《原初の七大悪魔》がいるじゃない。物理法則もなにもかも無視できる悪魔。それも人間の心を持ち合わせた隠れキャラの二人。ラストや、グラトニーがいる。どちらかをここに召喚できれば──私の願いは全て叶う!)
自然と口元に笑みを浮かべて私は勝利を確信した。
それが取り返しのつかない選択だと知って後悔するのは、少しあとの話。