虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない
つねに真摯な態度で接してくれる彼に私も応えたい。
「セドリック様……、わ、私も好きです」
「!」
「けれど、セドリック様と同じ熱量を……今すぐに向けることも、この思いが恋や愛と呼べるものなのか……断言できません。……だから私に愛することを教えて頂けないでしょうか」
セドリック様の宝石のような青い瞳が輝き、同時に破顔した。
「ええ、ええ! もちろんです。オリビアから前向きな気持ちが聞けて嬉しいです」
ギュッと私を抱きしめるセドリック様は終始嬉しそうで、尻尾も驚くほどバタバタと音を立てていた。
「そうですね。まずは私の名前を敬称なしで呼べるようになるところからでしょうか」
「急に……ハードルが上がったような?」
「そうですか? ダグラスやスカーレットには普通に呼び捨てじゃないですか」
「あの子たちを……引き合いに出すのは、違うような気がします」
「違いません」
不服そうにセドリック様は反論する。
ダグラス、スカーレット。この子たちはフランの、セドリック様の古い友人でなぜか張り合う。
「オリビア、つらいことや困っていることはありませんか?」
「……いいえ。毎日、十分すぎるほど……良くしてくださっています」
「足のリハビリも頑張っていると聞きます。回復に向かっているとか」
「はい。もう少しで……治癒魔法をかけても大丈夫だと、ローレンス様から……許可を頂けました」
ぐずる私にセドリック様は背中を優しく撫でてくれる。気遣ってくれることが嬉しくて、涙が止まらない。先ほどは恋や愛がわからないと口にした、けれど──。
「やっぱり、さっき……嘘を言いました」
「え、えっと……どの話ですか? まさか『私を好きだ』というところですか?」
あわあわと焦るセドリック様に私は首を横に振った。
「『この思いが恋や愛と呼べるものなのか断言できません』という部分で、セドリック様を思うと胸が苦しくて、……会えたら嬉しくて、幸せで、頬に触れるのも、キスをするのも……いやじゃなくて、嬉しくて、……抱きしめられるのがドキドキして、離れたくない。そのぐらい……好き、になっていますぅ……」
「…………」
黙っているセドリック様に目を向けると、顔を真っ赤にして口元を緩ませている姿あった。
「ああ、……嬉しいです。オリビア、幸せで夢じゃないかって、思ってしまいます」
「夢に……したくないです」
こつんと、額が重なり、互いの唇が触れ合う。
手の甲や、頬や額とは違う。
愛していると実感できる。
不安が消えて、安堵が広がっていく。愛する喜びと、愛される幸せを教えてくれた人。
悲しいことやつらいことにも終わりがあるのだと、実感させてくれた。
私の思いは、ちゃんとセドリック様に伝わっているでしょうか。
いつの間にか雷が怖かったことなんて頭から消えていた。