虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない
第20話 忍び寄る脅威
誰かに愛されたかった。
真っ黒な場所で、私の傍に居る人たちはたくさんの「おべっか」は言ってくれたけれど、「愛している」と心から言ってくれる人はいなかった。
誰かに抱きしめられた記憶はない。
大人になって、気づいたら甘え方も頼り方も分からなくなっていて。
誰かが頼ってくれるのが嬉しくて。
誰かが笑ってくれるのが心地よくて。
いいように利用されていると、どこかで分かっていても──断り切れなかった。
でもでもだって、ばかりだったと思う。
そうやって生きてきた私のことを、ちいさな、誰かが抱きしめてくれた。
心から「すき」だと言ってくれた。
あれは──誰だっただろう?
頬を摺り寄せて、「愛している」と口にして、とっても温かくて、安心できた。
ああ、他人の体温はこんなに温かくて、落ち着く。
甘えるのが下手だけれど、弱音の吐き方も分からないけれど、強がらなくていい。そう言ってくれる人と、ようやく、出会えた。
ちゃんと帰ってくるから、と誰かに言った気がする。
帰る場所があるんだって、わかったらなんでもできそう。
もう思い出せない、記憶が霞んで、霧散してしまうけれど、あれは──。
『────オリビア』そう、私を呼ぶのは──。