虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない
同族の癖に天使族と手を組んだ恥知らず。使い魔である触手はセドリックが瞬殺。魔物を呼び寄せるために作った亀裂も既に封じられ討伐されている。対応が早過ぎる!
奥の手に取って置いた神官に命じる。ここは撤退しかない。大丈夫だ、ここを逃れてもっと時間をかけてオリビアの魂を奪えばいい。
魔導具の《蝴蝶乃悪夢》は私の核の一部で作った。私が死んでもオリビアは悪夢から帰還しない。悪夢を解除できるのは私だけ!
「神官たち、アレを止めろ!」
「ハハッ!」
「承知しました」
使い魔にした神官たちに相手をさせたが、第三者によって斬り伏せられ炭化して消えた。凄まじい魔力を感知し、竜魔王かと思ったが──そこにいたのはディートハルト前竜魔王と、その妻である天使族のクロエだった。ありえない。
二人とも石化したまま解除されていなかったはず。
百数年という時間の流れを感じさせない程二人は、以前と変わらぬ美貌と魔力を備えて私の前に現れた。
「ば、馬鹿な。お前は──」
「百数年ぶりか。お前の始末は竜魔王である我が請け負うと決めていてね。弟には迷惑をかけた分、この先の相手は我ら四人でさせてもらう」
「ふ、ふざけるな! ようやく見つけた至宝の魂を目の前にして諦められるか!」
今こそ百数年間の悪夢を見せ続けたフィデス王国国民から負のエネルギーを根こそぎ奪って──。そう思った直後、急に力が衰え、魔力が失われていく。
「な、なぜだ。私は百年以上前から、準備をしてきたというのに!」
「はっ、それはこっちの台詞だ。百年三前にリヴィが石化魔法を使った段階で、お前の負けは決まっていたんだよ」
「暴食、お前が、魂を食らったのか!?」
「いいや。俺が食ったのは記憶だよ。リヴィに関する記憶だ。お前はリヴィを利用して負の感情や魂を集めていたのだろう。だが、肝心のリヴィが覚えていなければ意味はない」
「なっ……」
眼前の悪魔は、リヴィの記憶を食らい私の魔力増幅を防いだ。
そして全ての準備を整える為にディートハルトとクロエは雲隠れした。
天使族と悪魔族の共闘?
ありえない。悪魔族は自分の愉悦のために生きる存在だ。
他者の為に動こうとなど考えない。そういう風に出来ていない。
まるで他種族として認められ、受け入れられている悪魔族の少年に嫉妬し、憎悪し、激高した。