虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない
「この悪魔の出来損ないが! 悪魔族の癖に、私と同じ、人間の闇から、泥から劣悪な場所から生まれたくせに! そっち側で、輪の中に入っているんじゃない!」
蝙蝠の翼を生やし、両手に漆黒の鎌を携えて漆黒の鎖を引きちぎる。
かつてないほどの怒りが、私の中で燃え上がった。
「お前だけはあああああああああああああああ!」
暴食めがけて突貫する。それに合わせて暴食は、漆黒の槍を生み出し、私に向けて投擲した。その速度と威力は肩を抉り、速度が落ちた瞬間、ディートハルトが背中から私を突き刺した。
「があっ……」
「滅びろ、色欲」
崩れ逝く私を天使族の二人が亜空間へと誘う。あの隔絶された空間内で死ねば復活は不可能。
終わり、死ぬ。
蝙蝠の羽根は消え、体も崩れて亜空間へと落ちた。
隔絶された世界。
誰もいない何もない──世界。
悪魔は孤独だ。
私の能力は相手を洗脳すること。その力があれば誰も彼もが私に良くしてくれる。
私を褒めてくれる、贈り物もくれるし、愛してくれる。
でも、傍には居てくれない。
だって私は悪魔だから。
私の近くに居れば人間の魂を吸収して殺してしまう。それは止められない。
仲良くなっても、仲間になっても、家族であっても殺してしまう。
昔、お人好しの伯爵家があった。優しくて、温かい。そんな人たちの絶望した顔が未だに忘れられない。当時のことはあまり覚えていないけれど、あの魂はとても美味しかった。
心から満たされた深みのある味わい。
(ああ、あの魂を──宝石のように輝く魂を食らうことができれば、私も……今度こそ……)