クローバー
だけど今日は特別な日だ。
食器を流し台に置いてから2人の方を振り向く。

「友達と遊びに行ってくるね。」

こんな事を言うのは2人と暮らして初めてだから、どんな反応をするかな?って少しドキドキした。

2人とも時間が止まったみたいにピタリとうごかなかくなった。

何故か体が熱くなり鼓動も速まる。

短い沈黙の後、最初に口を開いたのはお祖父ちゃんだった。嬉しそうにニッコリ笑う。

「そうかぁ。うんうん。行ってきなさい。楽しんで来るんだよ。あ!そうだ。お小遣いは?足りてるかい?」

続いてお祖母ちゃんが、

「映画でも見に行くの?それだったら必要でしょ?気にしないで持っていきなさい。お祖父ちゃんくれるって言ってるんだから。ね?」

「本当に大丈夫だから!じゃあ俺支度してくるから。」

そう言って足早に自分の部屋に。

ゆっくりとドアを閉める。椅子に座って深呼吸して鼓動を落ち着かせて耳を澄ますと2人の笑い声が聞こえてくる。

2人にとって俺が友達と遊ぶ事がそんなに嬉しいこととは思わなかったから、嬉しいなと思う気持ちと今まで友達の事で心配をかけていたんだなと申し訳ない気持ちになる。

「アイツの言った通りだったな…。」

アイツとは俺がこの後会う事になっている女だ。

同じ高校の同じ学年の同じクラスの隣の席。




「アンタの悩み。あたしが解決してあげようか?」

これがアイツが俺に言った最初の言葉。

何で俺に悩みがあると思ったのか、しかも初対面の俺に対してどういう思いで言ってきたのか?とにもかくにも俺は無視して、席を立った。

アイツはアレ?っと一瞬動きが固まったけど、めげること無く俺の後を追いかけてきた。
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