クローバー
次の日、俺と天音は2人肩を並べて帰り道を歩いた。

朝からこの事が頭から離れなくて授業だってまともに聞いて無かったし。

気がつけば彼女を目で追ってるし。

そんな自分が何か嫌だった。

だけど彼女は俺がそんな事を考えてるのを気づいてはくれなくて、今度お昼を一緒に食べよう。とか、休みの日に暇なら遊びに行こう。とか嫌な事ばかり提案してくる。

しっかり断っておくべきだったかもしれないな。
俺の思いとは裏腹に天音は親しげに話しかけてくる。
「あーそう言えばさぁ!佳子から聞いたんだけど、この先に新しいクレープ屋が出来たんだって。」

この先。は俺の家とは正反対だ。

「へーそうなんだ。」

「へー。って!私が行ったこと無いって行ってるんだから、じゃあ行ってみる?とか、言えないわけ!?」

心から面倒くさいと思う。彼女の眉間にシワが寄る。俺の思いが顔に出てしまっていたんだろう。
面倒だな…とか思いながら、とりあえず口に出す。

「じゃあ…行ってみる?」
すると彼女は満面の笑みにを浮かべ、
「行くぅーっ!」
と俺の腕を腕をぐいぐい引っ張って歩き出した。

「そんなに引っ張んなくてもちゃんと行くから。」

と言うよりこの状態が照れくさい。こうやって同級生と肩を並べて歩くのは殆ど初めてに近いし、相手は女だし。

なにより昔を思い出す。あんまり記憶は無いけど母さんが働いてたから俺はいっつも姉さんと一緒にいた。
学校。

公園。

買い物。

家。

いっつも姉さんの後ろにくっついてた。

今思うと3つ上の姉さんは歳の割にはしっかりしずぎてる位に大人びていたと思う。父さんがいなくなって働き出した母さんの負担を少しでも軽くしようと出来る限りの事はやっていたからだろう。料理も洗濯も掃除も姉さんが。俺も手伝っていたつもりだったけど当時の俺はそれが遊びみたいなものだったから、本当に手伝いになっていたかは微妙だ。でもこれだけは自信を持って言える。『楽しかった。幸せだった。』と。あの時までは。
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