またたびなんて頼らなくても恋愛は出来るのにゃ
恋愛は僕たちにとって子供を残すためのある一つの過程にすぎない。のだが、最近街の様子がおかしい。僕が通う大学のゼミでもこれまで恋愛になんて興味のない連中ばかりの集まりだったはずが、いつの間にか番を見つけてひと目も憚らずイチャイチャとしているのがよく目立つ。
あまりの光景に数少ない友達のそんな姿を僕にはとても見ていることが出来ない。
ため息すら出てきてしまう始末だ。
世界は広い。そんな言葉を残す人ほど信用ならない。世界は物理的に見れば確かに広いのかもしれない。だが、それはあくまで物理的にかつ、現実的に見てのこと。僕からしてみれば、世界はあまりに狭い。視力には自信があるがそれでも見える世界は限られている。見えてせいぜい60メートル先といったところか。人間と呼ばれる種族が暮らししている世界では”猫”と呼ばれる僕らと似たような動物が生きて野生化で生活しているらしい。とてもじゃないが似ているとは思えないが・・・。
携帯でSNSを確認しながら大学の門をくぐると、ふと友達のリツイートが気になった。
「親友だと思っていた幼馴染のあいつを絶対俺の虜にしてやる」
男と男が頬を赤らめて、半裸の状態でベッドに重なり合っている漫画の一コマ。これは・・・最近、大学の女子たちの間で流行っているBLというやつなのか?
正直、この手の恋愛漫画にはまるで興味がない。それは有名な恋愛漫画や小説、アニメ、映画、ドラマなんかにおいてもそう。他人が誰かを好きになって、その模様を文字やアニメや演技にして表現することに何ら面白さも感じない。恋愛は現実の世界でもこそ楽しむものではないのか?こんな現実離れした恋愛に何を興奮し、何を感じて、心を躍らせるのだろうか?まるで理解で出来ない。特に何だこれは、BLなんてただ男同士が乳繰り合ってアブノーマルな恋愛関係を築いている一番現実離れしている話だ。何より、正直な感想、男同士という設定が気持ちが悪い。
「よくもまあ、こんなの読めるよな。しかもこいつ、男のくせに。まっ、どうでもいいけど」SNSを閉じて、音楽アプリに手をのばす。ワイヤレスイヤホンを取り出そうとポケットの中をまさぐるが、なかなか見つけ出せず中を漁るとイヤホンケースを取り出した拍子に収納されていたイヤホンが地面に転がり落ちた。
「おっとととっと・・・」転がるイヤホンを見失わぬように追いかける。追いかけたイヤホンの視線の先に誰かの靴が入ってきた。視線に入ってきた靴の持ち主がイヤホンを踏んでしまう前に「すまない」と一言だけ入れてイヤホンを手に取った。
立ち上がり、改めて謝りを入れようと顔をあげるとそこには僕の顔を何故か覗き込むようにじっと見つめる男の顔があった。見たところ大学生のようにも見えるが、この大学では見たことのない顔だ。自慢ではないが、僕は人の顔を覚えるのは得意な方で一度顔と名前を覚えてしまえば、よっぽど記憶から消したいやつでない限り忘れることはないと自負している。はずなんだが、目の前のこの男の顔に関しては見たこともない。この大学の人間ではないのか?
「あの、すみません。イヤホン落としちゃって、」
「いや、別にいいんだけど。それよりさ、君、俺と一緒にこの後飲みに行かない?」
「は?」

僕は自分でも知らぬ間にその見ず知らずの男と飲みに来ていた。しかも二人きりで、しかも見ず知らずのはずなのに個室居酒屋の一番奥の座敷。目の前にはいつの間に頼んだのか、大量の焼鳥の串と申し訳程度のサラダと、ジョッキのビール。あれ、これ本当に二人で来ているんだよな?てか、なんで僕はこの人とふたりきりで個室居酒屋に来ているんだ?
「あの、なんで僕たちここに・・・?」
「え、だって君、俺の足元にイヤホン落としたでしょ?だから」答えになってないんだけど?てか、これってどういう状況?てか、これって実はドッキリでしたとかそういうオチじゃないよな?てか、むしろドッキリであって欲しいんだけど、てか・・・
「てか!なんで!僕は見ず知らずのあなたとこんな場所に、二人きりで来ているんですか!?」
「だから!イヤホン落とした君の顔を見て!人目で気に入っちゃったの!」
「は?」言っていることの理解ができなかった。頭の中に毛玉でも溜まってしまったのかように思考が鈍い。とりあえずと眼の前で僕のことをじっと見つめながらビールを飲む男の視線をよそに出されている焼き鳥たちに手を付ける。僕が頼んだ記憶はないため、この男が予め頼んでおいた料理なのだろう。この際だ、出されている料理を残すわけにもいかない。僕が頼んだわけじゃない、故にこれらを食べても僕がお金を払う道理はない。僕は出されている食事を残して捨てられないようにするために食べるのだ。
「いいね、食べる顔まで気に入ったよ。ほんと、やっぱりあの大学に来て良かった」その男は僕の顔を見ながらボソボソと独り言を言いながら僕の後に続くように焼き鳥とビールに手を付ける。見ないようにしているが男の熱い視線が正直イタい。なるべく視線を合わせない、何故か視線を合わせたら最後なきが・・・する。
「ねぇねぇ、ところでさ、君の名前なんていうの?せっかくご飯に来たんだから教えてよ」突然質問をしてきたかと思えば、僕の名前を知って何になるというんだ?焼き鳥のかわたれを頬張り、口の中で噛み切れない皮と格闘しながら疑問に思う。数秒を掛けてようやく飲み込んだ。
「なんで教えないといけないんですか?」
「まあいいじゃん、せっかくの出会いだし、それに君いま、何食べてる?これ、俺が頼んでおいた料理なんだけど?」にこやかな笑顔を向けながら脅しまがいな言葉で痛いところをついてくる男に僕は一瞬で敗北した。
「痛いとこついてきますね・・・、まぁいいでしょう。僕の名前はレオです」
「レオ?へぇ~かっこいい名前だね。でもそんなかっこいい名前なのに、ほっぺたのところに焼き鳥のタレが付いてるとこ、可愛いね」
「え?」携帯の内カメラで確認すると、右頬に先程の皮のタレが付いていた。勉強の疲れで毛が毛羽立っていたせいか気が付かなかった。
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop