麗しの王様は愛を込めて私を攫う
 リシウス陛下は麗しい方だ。
 側室であられた(残念ながら、リシウス様を生まれた後亡くなられてしまった)妃殿下によく似ておられる。

 その美貌には老若男女問わず惹かれるらしく、まだ幼き頃からいろいろな事があったのだ。

 まだ王子殿下であった頃から部屋へ令嬢が入り込まれる事も多く、その度に私や臣下達が対処してきていた。


 押しかけてくる者は、若き令嬢だけではなかった。

 恐ろしい事に、血の繋がりがないとはいえ母となられる正妃殿下までも、部屋へ来られた事もあったのだ。

 あれは、第二王子様が亡くなられて一年程過ぎた時だった。

「アダム、お前は今夜僕のベッドで寝て」
 
 突然リシウス殿下が私に言われた。

「側近が主君の寝具を使うなど、そんな事はできません。どうかなされましたか?」
「どうにかされそうだから言ってるんだよ。いいから、今夜は僕のベッドを使え」
「はい」

 リシウス殿下の言っていることがよく分からないまま、私は主君のベッドで寝ることになった。


 上質なベッドになれない私は、なかなか寝つけずにいた。

 すると……。

 深夜、誰かが私の寝ているベッドへ登って来た。
 そのまま手首を捕られ組み敷かれる。

「誰だ!」
「アダム?! 何故お前がリシウスのベッドで寝ているのよ!」

 驚いた顔でそう叫びながら、私を上から組み敷いていたのは第一王妃ターニア殿下だった。

 ターニア殿下はまるで娼婦のように薄い寝間着姿で、身体からは鼻につく甘い匂いが立っている。

「王妃殿下….…一体コレは……どうして」

「僕をどうにかしようと思っていたんだろう」

 暗闇からリシウス殿下の声がした。

 ……どうにか……ああ、そういう事か。

 リシウス殿下の少年から大人へと変わりつつあるその顔立ちは、男性にもかかわらず、誰もが見惚れるほど美しく妖艶だった。
 しかし、まさか王妃殿下までが。

「義理とはいえ息子を襲うとはね。この事を父上に告げられたくなくば、僕の言う事を聞くんだよ。母上」

 私を組み敷いたまま固まる王妃殿下の首に、剣を当てながらリシウス殿下は低い声で告げられた。

「リシウス……お前」

 ワナワナと唇を震わせ声を低くするターニア王妃。

「口の利き方がなっていないようだね、ターニア」

 少しだけ角度の変わった剣先がキラリと光を放った。


「……分かりました。……王太子殿下」

 青褪めたターニア王妃はその場で項垂れた。



 その半年後に王妃達の争いが起こったのだ。

 王妃が側室達に放った言葉に憤慨した側妃が壁に飾られた剣を手に取った。まさか剣を向けられると思わなかった正妃は王様に助けを求め……王の部屋は惨劇の間へと変わってしまったのだ。
 正妃と王を斬りつけた側妃はもう一人も道連れに命を絶たれた。
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