麗しの王様は愛を込めて私を攫う

7 また攫われた

 何故か私は、また攫われてしまった。



 突然、部屋に華美な服を着た太った男が入ってきた。
 その男は部屋に入るなり大声で怒鳴りだした。

「ディック、出てこい! お前がいる事は分かっているんだぞ!」

 男が言うと、何処からか全身黒い衣装を着たスラリとした男が現れた。

「ザイオン様分かってますか? 俺、今リシウス陛下の影なんですよ? 王様に雇われてるんですけど」

「ふん、お前は何処へ行っても公爵家のモノなんだよ。ほら、コイツをサッサと連れて行くぞ」

 男は、私に手を伸ばそうとする。

「ちょっと、あなた誰なのよ!」

 私は男をキッと睨みながら、できる限り後退りをした。

 無理矢理連れて行こうとしている『ザイオン』という男は、私を舐めるように見ると、いやらしく目を細めた。


「へぇ、なかなかいい女だな」

「ザイオン様、悪い事は言いません。この女はやめといた方がいいです」
「いいんだよ」
「知りませんよ? あの王様、この女に触れるだけでもヤバいんですから」

 そう言いながら、ディックは私の口に布を噛ませ声が出ない様にした。

「んーんー」

 ザイオンは抵抗しようと声を出す私の様子を見てニヤついている。

「ヤツは今朝議に出ている。暫く来ないから大丈夫だ。それにしても、他に警護も付けずお前だけに任せているとはな、ホラ」

 ザイオンは笑みを浮かべながら、ディックに何かを放り投げた。

「コレ、どうやって手に入れたんです?」

 受け取ったディックが、目の前に掲げて見ていた物は鍵だ。
 フッと思い出したようにザイオンは笑った。

「この足枷を作ったのは公爵家に縁のある所だったんだよ。俺が鍵を寄越せと言ったらすぐに渡してきた。リシウスもまだ青いってことさ」

 ディックは私の両手をきつく縛ると、嵌められていた足枷の鍵を外した。
 せっかく足が自由になったのに今度は両手が縛られるとは。

「よし、いくぞ!」

 ザイオンは、その体からは想像出来ない程素早く動き、ディックと共に私を部屋から連れ出した。
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