麗しの王様は愛を込めて私を攫う
 そうやって連れて来られたこの場所は、ザイオンの住む屋敷。
 ザイオンは俺の家と言っていたから、公爵家の中だろう。

 私は、やたらと豪華な部屋に連れ込まれた。そこにあった本棚の奥に隠し扉があり、その先の暗く狭い部屋に閉じ込められた。

 部屋に入るとザイオンは口枷を外した。

「いいか? 騒げばその顔に傷を入れるからな」

 ザイオンに脅された私は、コクコクと頷く。
 痛いのは嫌だ……。

 口枷は外してもらえたが、その代わりに自由になっていた足首に、長めの鎖を繋がれた。鎖の先は部屋の壁にある手摺りに繋がれている。


 貴族という人達は、拐ったり縛ったりするのが好きらしい。

 ……ジェームスも貴族になっちゃったからこんな事するのかしら。

 そんな事を考えながら、誰もいなくなった部屋の中で、私は手に結ばれている縄を解こうと頑張っていた。


 逃げられるなら逃げたい。
 ザイオンは、見た目もだけど何だか怖い。
 気持ち悪い。


 縄を鎖に擦り付ければ切れないだろうか。

 そう思い、実行してみた。


(ああ、喉が渇いた……)

 ここへ来てからどれぐらいの時間が過ぎただろう。
 私は、朝から何も飲んでいない。

 昨夜食べた時間が遅かったからか、お腹は空いていないけれど、喉は渇いていた。

 朝、部屋を訪れた侍女は、私が起きているのを見てすぐに「お食事をお持ち致しますね。少々お待ちください」と出て行った。


 その直後にザイオンがやって来た。

 今頃、侍女さん達は部屋からいなくなってしまった私を探しているかも知れない。

 ザイオンに攫われるまでは逃げ出そうと考えていたのに、彼女達の心配をするなんて……。

 でも、私の為に彼女達が叱られたりするのは嫌なのだ。


 何としてもここから逃げ出さなければ。

 鎖に縄を当てて擦っていると、壁の向こうから話し声が聞こえてきた。
 その声は、ザイオンと聞いたことのない女の人の声。

「ザイオン、本当にリシウス陛下はいらっしゃるの? その捕まえて来たみすぼらしい女の為に?」

「来るさ。アイツ足枷までして捕まえていたんだぜ、よっぽどだろ? 返して欲しければイザベル姉さんと結婚しろって言ってやる」

「そんな条件をリシウス陛下が呑むかしら?」

「呑ませればいいだろ? まだ王になって数日だ、あんな若い王に従えている奴らも少ないだろうからな。それに妃を公爵家から娶れるんだ。アイツにとってうまい話でしかないだろう」

「そうね、私なら不相応では無いものね」

 そう言って、高らかに笑う二人。

「ところで、父上はどうしてる?」
「お父様は明日までは帰らないはずよ」
「……だったら大丈夫だな。それまでにはアイツが来るはずだから」


 二人は姉弟のようだ。
 彼らは私を使ってリシウス陛下を呼び出したかっただけなの?

 その為に、私は囚われ鎖で繋がれているの?


 擦り付けるが、縄は全く切れる様子はない。ただ時間だけが過ぎていった。

(体が……辛い……)

 ずっと同じ格好をしているからなのか、体が痛くなってきた。



 ああ、こんな事ならリシウス陛下に捕まっていた方がまだよかった。

 あの人ちょっと変だけど、私に触れる手は優しかったもの。



 ザイオンが言っている様に、私を助けに来てくれるの?


 一国の王様が?

 こんな何の得にもならない平民を助けるの?

 ……何のために?
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