麗しの王様は愛を込めて私を攫う
2 奪われた青いリボン
十二歳の時のこと。
その日、私は足を痛めてしまったおばあちゃんの代わりに町へ買い物に行った。
いつもと同じ服を着て、けれど髪には少しだけオシャレに青いリボンをつけて。
使うようにと言われていたあのリボンは普段は使わず出掛ける時にだけつけるようにしていた。
上質なリボンは普段着けるにはもったいない気がしていたから。
「あら、親なしメアリーじゃない。こんな所に来るなんて珍しいわね」
おばあちゃんと暮らし始めてから通い出した学校で、何かと目立つ存在の同級生。いつも何かと絡んでくる商家の娘、クロエに出会ってしまった。
クロエは私の事を初めから嫌っている。
睨まれるし、いつも意地悪な事を言ってくる。
意味もなく水や土をかけて来たり、机いっぱいに落書きしたりノートを破ったり、学校の帰りにいくつも小石を投げて来た事もあった。
リーダー格のクロエがする事には、誰も何も言えないらしく表立って庇ってくれる人はいなかった。
子供の世界は意外と過酷だ。
見た目や家の裕福差が虐めへと繋がってしまう。
私はその対象に選ばれてしまったのだ。
虐めと言っても、その一つ一つは小さな出来事。
だから私は、誰にも言わずに我慢していた。
その一番の理由は、おばあちゃんに心配させたくなかったから……なのだけれど。
両親を亡くした私は、おばあちゃんが国から貰う補助金で暮らしている。
贅沢などはとても出来ない。
それに比べ、クロエの家は商家でお金持ちだ。
毎日の様に新しい服や髪飾りを着けては、何故か私に自慢をしてくる。
多分、羨ましいと悔しがるのを待っているのだろう。
今日の彼女は、自慢の亜麻色の髪をきれいに編みこみ赤いリボンを結んでいた。
「何か言いなさいよ! いつも気取った態度で、なんであんたはそんなに偉そうなのよ? その上同じ服ばかり着て、それって汚くないのかしら?」
数着の服を洗っては着回している私に難癖をつけるクロエ。
「……汚くなんてないわ。ちゃんと洗って」
「何よ! あんたなんて少しキレイな顔してるからっていい気にならないでよ!」
「………」
「嫌な女ね! あんたなんて大っ嫌い!」
訳もない言い掛かりをつけられるのはいつもの事だ。
だからって気にならない訳じゃないけれど。
でも、キレイな顔してるからといい気にはならないと思う。
クロエが言うように、私の容姿は比較的良いらしい。
自分ではよくわからないが、両親は美男美女の夫婦で知られていたから、私も受け継ぐことが出来たのかも知れない。
でも、その事で気取っているつもりはない。
何と言ったらいいのか分からないでいるとクロエが次々と話し出すから、私はそれを黙って聞くしかなくなるのだ。
クロエは私をサッと見ると、髪につけていた青いリボンに目を留めた。
「……あんた、そのリボンどうしたの?」
「これ?」
これまで私がつけているのを見たことがなかったからか、クロエはリボンから目を離さない。
「これは、ある人からもらった物なの……」
そう言っている間に、彼女は私の髪からリボンを取った。
「あんたなんかにこんないい物はもったいないわ! 私が使った方がこのリボンをあげた人も喜ぶに決まってるわ!」
そう言って、自分の赤いリボンを外すと私から奪った青いリボンを髪に結んだ。
「ほら、私の方が似合うわ!」
クロエは、自分が着けていた赤いリボンをその場に捨てると「泥の付いたリボンがあんたにはお似合いよ」と言い踏みつけて去って行った。
捨てられた赤いリボンをそのままにも出来ず、私はそれを拾い、買い物をして家に戻った。
「あら、メアリー、髪に着けていたリボンはどうしたんだい?」
「いつの間にか解けていて……無くしちゃったの」
「そうかい。残念だったねぇ。よく似合っていたのにねぇ」
おばあちゃんに心配かけたくなくて、本当はクロエに取られたと言えず嘘をついた。
その日、私は足を痛めてしまったおばあちゃんの代わりに町へ買い物に行った。
いつもと同じ服を着て、けれど髪には少しだけオシャレに青いリボンをつけて。
使うようにと言われていたあのリボンは普段は使わず出掛ける時にだけつけるようにしていた。
上質なリボンは普段着けるにはもったいない気がしていたから。
「あら、親なしメアリーじゃない。こんな所に来るなんて珍しいわね」
おばあちゃんと暮らし始めてから通い出した学校で、何かと目立つ存在の同級生。いつも何かと絡んでくる商家の娘、クロエに出会ってしまった。
クロエは私の事を初めから嫌っている。
睨まれるし、いつも意地悪な事を言ってくる。
意味もなく水や土をかけて来たり、机いっぱいに落書きしたりノートを破ったり、学校の帰りにいくつも小石を投げて来た事もあった。
リーダー格のクロエがする事には、誰も何も言えないらしく表立って庇ってくれる人はいなかった。
子供の世界は意外と過酷だ。
見た目や家の裕福差が虐めへと繋がってしまう。
私はその対象に選ばれてしまったのだ。
虐めと言っても、その一つ一つは小さな出来事。
だから私は、誰にも言わずに我慢していた。
その一番の理由は、おばあちゃんに心配させたくなかったから……なのだけれど。
両親を亡くした私は、おばあちゃんが国から貰う補助金で暮らしている。
贅沢などはとても出来ない。
それに比べ、クロエの家は商家でお金持ちだ。
毎日の様に新しい服や髪飾りを着けては、何故か私に自慢をしてくる。
多分、羨ましいと悔しがるのを待っているのだろう。
今日の彼女は、自慢の亜麻色の髪をきれいに編みこみ赤いリボンを結んでいた。
「何か言いなさいよ! いつも気取った態度で、なんであんたはそんなに偉そうなのよ? その上同じ服ばかり着て、それって汚くないのかしら?」
数着の服を洗っては着回している私に難癖をつけるクロエ。
「……汚くなんてないわ。ちゃんと洗って」
「何よ! あんたなんて少しキレイな顔してるからっていい気にならないでよ!」
「………」
「嫌な女ね! あんたなんて大っ嫌い!」
訳もない言い掛かりをつけられるのはいつもの事だ。
だからって気にならない訳じゃないけれど。
でも、キレイな顔してるからといい気にはならないと思う。
クロエが言うように、私の容姿は比較的良いらしい。
自分ではよくわからないが、両親は美男美女の夫婦で知られていたから、私も受け継ぐことが出来たのかも知れない。
でも、その事で気取っているつもりはない。
何と言ったらいいのか分からないでいるとクロエが次々と話し出すから、私はそれを黙って聞くしかなくなるのだ。
クロエは私をサッと見ると、髪につけていた青いリボンに目を留めた。
「……あんた、そのリボンどうしたの?」
「これ?」
これまで私がつけているのを見たことがなかったからか、クロエはリボンから目を離さない。
「これは、ある人からもらった物なの……」
そう言っている間に、彼女は私の髪からリボンを取った。
「あんたなんかにこんないい物はもったいないわ! 私が使った方がこのリボンをあげた人も喜ぶに決まってるわ!」
そう言って、自分の赤いリボンを外すと私から奪った青いリボンを髪に結んだ。
「ほら、私の方が似合うわ!」
クロエは、自分が着けていた赤いリボンをその場に捨てると「泥の付いたリボンがあんたにはお似合いよ」と言い踏みつけて去って行った。
捨てられた赤いリボンをそのままにも出来ず、私はそれを拾い、買い物をして家に戻った。
「あら、メアリー、髪に着けていたリボンはどうしたんだい?」
「いつの間にか解けていて……無くしちゃったの」
「そうかい。残念だったねぇ。よく似合っていたのにねぇ」
おばあちゃんに心配かけたくなくて、本当はクロエに取られたと言えず嘘をついた。