麗しの王様は愛を込めて私を攫う

12 王様と平民の私

「リシウス陛下、これは?」

 困惑する私の前で輝かしい笑顔を見せているリシウス陛下。

「いいね、やっぱり青で正解だな」
「私はこんな物、着けたくありません」
「……似合うよ?」

 リシウス陛下は夜、私の部屋へ来ると両足首に青い紐を結び着けた。
 まるで最初に嵌められていた足枷のように。

「リシウス陛下はどうしてこんな事をなさるのですか? 私をどうしたいの?」

「僕はメアリーを愛している。だから妻にしようとしている」

 当たり前のことの様に彼は愛していると話す。

「……あ、愛しているだなんて、私」

「僕は君を妻にする為に国王になったんだ。メアリーを最初に見た時から、君が欲しいと思った。必ず手に入れると決めた」
「手に入れる?」
「僕じゃ不満?」

 この国の見目麗しい王様は、その美しい青い瞳で私を見つめ真っ直ぐに愛を告げた。


 ずっと私を見守ってくれた人。
 私の為に薔薇の花束を贈ってくれていた人。

 数々の贈り物は、彼なりの愛情だったのだろう。
 少し変わった愛し方をするリシウス陛下。
 それとも高貴な人達には、これが普通の愛し方なのだろうか?

 この数日間、ずっと私に優しくしてくれた。
 君は王妃になるんだと私に言って。


 しかし、私はずっと考えていた。



「私は平民です。身分が違い過ぎます」

 彼の顔を見ていられずに俯いてしまう。

「身分など気にせずとも」
「いいえ! そんな訳にはいきません」


 王様が、平民の、身寄りもない娘など相手にしてはならない。

 どんなに愛していると言われても、それは一時の気の迷いだろう。

 はじめに手に入れようとして入らなかった事が、執着へと繋がっただけに思える。

 その証といえるものがこれ。
 足首に結ばれたリボン。

 私を捕らえる為のもの。



 彼は、あの時捕らえられなかった獲物を手にしたいだけ。

 欲しいという気持ちを愛だと勘違いしているだけだ。

 彼の周りにはいない、平凡な娘が珍しいだけ。




 この人は王様。
 国民から愛される、麗しいく賢い王様。

 どう考えても、私では無理がある。

 この方の隣に並ぶなんて……出来ない。


「私には、王様の妻になるなど到底無理です」

 私は彼に深く頭を下げた。


「もう、無理です」

 これ以上優しくされたら私だって勘違いしてしまう。
 本当に愛されているのだと思ってしまう。

「僕は君を愛しているんだよ?」

「私は……平民なんです」
「そんな事は、気にせずとも」

「私は、リシウス陛下を愛していません」

 そう言った私の胸はズキズキと痛んだ。


「家に、帰りたいのです」



「……どうしても?」

 リシウス陛下の声は少し掠れていた。



「はい、お願いします。お願い致します」

 頭を下げたまま私が言うと、リシウス陛下は無言で足首に結んだ紐を外した。


 それから、王様は静かに部屋を出て行った。


 閉められた扉から、私はなぜか目が離せない。


 これで良かった。
 そう思っているのに。

 大丈夫、私はまだリシウス陛下を愛してはいない。

 ……愛しては……。

 じゃあなぜこんなに胸が痛むの?

 なぜ、ずっと彼が出て行った扉を見ているの……?


 自分から無理だと言ったのに。
 愛していないと言っておいて。

 身分が違うと……。

 お妃様にはなれないと……。



 私は……平民だから。
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